読んだきっかけ

私は高校生の頃、古本屋(大手以外の)巡りが趣味でした。

そこに安部公房の「壁」があり、読むとその世界観に引きずり込まれてしまいました。

翌日もその古本屋に走り「人間そっくり」も購入しました。

 

本を読んだ感想

これは物凄い心理戦です。何年か前に流行った「デスノート」とは比べ物になりません。

「こんにちは火星人」というラジオの脚本家である主人公の男の家に、「僕は火星人」と言い張る男が訪ねて来ます。

脚本家の部屋で、男が二人、自称火星人男がナイフを出して逃げ場のない密室状態で、本書のほとんどはこの二人の会話だけで成り立っています。

二人の会話と多少の状況説明だけで、ここまで読者を奇妙な感覚に陥れることができるのは安部公房だけだと思います。

しつこく言い張る男に、脚本家は嫌気がさします。
この気分を表見するために、読者の家の内外に実際に存在する物・虫等を選んで組み合わせ、なんともおぞましい表現の仕方をするのです。

安部公房の作品にはこの様な表現が多いので、これを読んでゾッとするのも(少し屈折してますが)楽しみです。

二人のやり取りは淡々と進んでいくのですが、そのうちに男の奇妙な話術にはまっていき、脚本家だけでなく読者諸共、疑惑からほとんど確信にまで移ってしまいます。

この本も一気に読んでしまいましたが、読み終わった手は汗ばみ、心臓の鼓動も激しく打っていました。

安部公房は読者を混乱させ、奇妙な作品世界に引きずり込むような本をいくつも遺していますが、その中でも本書が一番だと思います。

 

今回の紹介本

安部公房「人間そっくり」